Tactic
「行こう」

先輩にそう言われ、私は歩き始めたが、この状況を喜ぶほどバカではない。

智也を傷つけてしまった。


あんな切ない表情、初めて見た。


手が震える。

智也に掴まれたその場所は、未だジンジンと疼くというのに。


「若宮」


色々なことを考えていたせいで顔に出ていたのか、南木先輩が心配げに話かけてきた。


「気にすんなよな。心配ないよ、智也は。ああいう態度とるくせに……本当は優しい奴なんだ」


「……わかってます。優しくて純粋で、だから余計にいつから変わってしまったんだろうって……思ってしまいます」


思えば、小学五年の頃からだった。


智也が、先輩と距離を置き始めたのは。


同時に、私の前で笑わなくなった。

いつも、苦しくて切ない表情だった。
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