Tactic
くるりと後ろを振り向き、帰路へ着こうかと歩みをはじめたときに、背後から聞こえた呼びかけにより、俺の足は止まった。


「智也っ、待って!!」



目を見開くが、その後すぐにマブタを正常に戻し、ゆっくりと「なに?」と問い、答えを待った。

「あの……今朝のキスのことだけど……」


遠慮がちにトーコは口を開くが、俺にはその後に続く言葉が想像できた。

トーコのことだ。

どうせ、「忘れろ」だの「なかったことにしろ」だの言うに違いない。


お前の性格は知っている。

恥ずかしさでいっぱいになると、いつもそういうふうに俺を無下にする。

「忘れろって言いたいのか?」


「え?」


俺の言葉が先だったからか、それとも考えていることを見透かされたのか、どちらにしてもトーコが驚き声を上げたのには違いない。


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