Tactic
急に、ぐんっと視界が変わった。

髪の毛を掴んだまま、引っ張られたようだ。


「なぁ、トモ。正直に言えよ?俺の女に手を出したろ?」


言いながら、叶は掴んだ髪を離さずに、なおも強く後ろへと引っ張り、俺の横顔を見据えていた。

黙ったまま、虚ろな瞳で叶を見る。


「それから、俺と関係のあった何人もの女と内緒でヤッてたらしいな?あ?なんでだ?」


ギリギリと俺の髪を掴む叶の手が、一層強くなった気がした。


「……言え…ないっ」


言ったら、リエさんにまで被害が及ぶ。


俺だけでいい。
俺だけが我慢すれば、それでいい。


「お前は……っ俺を裏切った!!あれだけ、弟みたいに可愛がってやったのに……お前はリエとーー密かに会っていた」


今度はカジに代わって、叶が俺を殴り蹴り上げる。


どうしようもない苛立ちを俺にぶつけていないと、叶はこのまま崩れていくに違いない。


かすれた声と血走った目が、それを彷彿とさせる。
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