Tactic
「母さん?なんか忘れ物?」


母親と思い、俺は部屋の入り口を見据える。



「智也……おはよう」


しかし、そこに立っていたのは制服姿のトーコだった。


戸惑いがちな、か細い声が俺の耳に届く。


どくんと、心臓が跳ね、そのまま、今までにないくらいの速さで鼓動がうねった。


「おばさんが家を出るとき、ちょうど私……智也の家に着いたばかりで。おばさんに二階に上がっていいよって言われて……」


「何しに来たんだよ」

トーコの言葉を、俺は低い声で遮った。


「……あ、あの、これ。昨日の分のプリント。先輩に渡すの忘れてて……」


慌てて、カバンの中をあさるトーコ。


久しぶりに見たトーコの姿は、俺の心を刺激する。

その肌の色も、唇も、髪も瞳も全て、変わらない姿だった。


ただ、一つ変わったのは俺に対する態度。


俺に、どこかしら遠慮した態度が、気に入らない。

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