Tactic


「それを……言いにきたの」


トーコの言葉が、胸を刺す。


気持ちは、揺らいでいた。

あの事件の後、トーコをあきらめた。


兄貴にはかなわないと思ったからだ。


それに、兄貴にならいいかなって……そう思った。



「じゃあ……もう行くね」


言いながら、トーコは俺に背を向ける。


ずっと、ずっと好きだったんだ。


周りが見えなくなるくらい。


好きで、好きすぎて、欲望は他の女へと向けられたけど、いつも、お前のことだけを考えていた。

トーコが幸せならそれでいいって……。


俺といるときは、困った顔ばかりするお前が、兄貴の前ではいつも笑顔だ。


その笑顔が一番、好きだなんて、俺ってバカだよな。


一生、そんな願い、叶わないくせに。



俺は、トーコの手首を掴む。


驚き振り返るトーコを見上げ、口を開いた。
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