Tactic
「と……智也?」


私は振り返って、智也に疑問の声を投げかける。

静寂の中、心音だけが響いているようだ。


鼻筋の通り、整った智也の顔はうつむいたまま。

何かいいたげな雰囲気のまま、沈黙が続く。



掴まれた腕は熱く、振りほどくことなんてできなかった。



「これ、やるよ」


智也はそう呟くと、胸につけてあった花飾りを取り、私の胸に手を伸ばす。


黙ったまま、その花を私の胸にそっとつけてくれた。


距離が近い。


胸に触れた智也の長い指が、私の体を硬直させる。


「でも……智也も式でるんでしょ?」



「俺は、んなもんいらねぇよ」


そう言って、智也は笑みをこぼし、私の頭をくしゃりと撫でその場を去っていった。


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