Tactic
「覚えて……ねぇの?」

トーコにすれば、俺が押し倒したことなんて、その日のうちに忘れるってことか?


そんなに、兄貴がいいのだろうか……。


「今でも……まだ、想ってんの?」


「え?」


「兄貴のこと」


トーコの目を強く見据えて呟いた。


「なぁ……答えろよ」


手を伸ばし、トーコの手に触れようとした。


そのとき、


「若宮?なに、お前も来てたの?偶然だな~」


男の声に、トーコの手に触れそうだったその手を止めた。


「井上くん?」


は?誰だよ、それ。


睨みつけたそいつは、爽やかな笑みをこぼす青少年。

トーコの好きそうなタイプだな。


なんて、心の中で思いながらも、俺とトーコの間にひょっと入ってきた井上って野郎に嫉妬を感じていた。
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