Tactic
「若宮!」


その呼びかけに私は顔を上げた。


爽やかな笑みを浮かべながら、井上くんは私の前の席に座り、体をねじらせ振り返る。



「昼休みだよ。ご飯、食べないの?仰木、先に食堂行ったみたいだけど」

「え?ウソ……もう昼休み?!」


言いながら、時計を見て初めて昼休みだと確認した。


萌のやつ~。声かけてくれれば良かったのに!


慌ててカバンからお弁当箱を取り出すと、机の上に置く。


それと同時に、井上くんが口を開いた。


「昨日は俺、邪魔だったかな?」


「え?」


「いや、ほら。若宮の友達。金髪の……南木先輩の弟だっけ。怒らしちゃったかなって」


沈んだ表情で、一生懸命笑みを零す井上くん。


「大丈夫よ、智也なら。気分屋だから」


そう言いながら、立ち上がろうとした。


瞬間、井上くんの手が私の手の上に重なった。


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