Tactic
「やっぱ、始業式出んのやめにするわ」


突然、何を思ったのか俺はそう呟いた。



「え?やめにするって……もうすぐ体育館に移動しなきゃ……」


目を丸くして驚く目の前のトーコに歩みより、その細い腕を掴んだ。


「残っててよ、トーコ。俺と二人、教室に残ろうぜ」


そして、ゆっくりと耳元に唇を近づけた。


「【かけひき】再開だ」

トーコの困った顔が、目に焼きついた。



どうして俺は……トーコを困らせることしかできないんだ?


兄貴ならきっと……トーコを笑顔にしてやれるだろう。


俺にはとうてい、叶えられない願い……。
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