ALL ROUNDER
夜の潮風が全身を包み込む。
生まれて初めての感触だ。
だが、この緊張感のほうが生まれて初めての感情だ。
一歩進むごとに、靴と砂がかすれる音
強弱をつけながら踊るように舞う潮風の音
リズムよく流れる波の音
すべての効果音が敏感に耳へと伝わる。
視線を前へと写すと、まだ俯いて待っていた。
このときに声をかけていれば
俺の時代の始まりだったのに。
そんなこと、こんなときに知る由もなかった。