記憶の引き出し(短編)
 でもそうではなかった。


ある日彼の携帯は、アドレスも番号も変わっていた。


突然の出来事に理解できず、現実を受け入れるまでにかなりの時間が必要だった。


届くはずのないメールを何度も送った。


失ったもの大きさは、心臓に針を突き立てられたような鋭い痛みとなって私の体の中を支配していた。


なんの説明もなく一方的に終わってしまった関係。


彼の実家の場所はなんとなく知っていた。何度も会いに行こうかとも考えたが、できなかった。


なんでもっと大切にしなかったんだろうと、したところで何も始まらない後悔ばかりが胸を突いた。
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