記憶の引き出し(短編)
 あれから彼の噂を聞くこともなかったから、今どこでどうしているかも全くわからない。


月日が辛さを忘れさせてくれた。


段々と考えることも少なくなり、彼がいない自分の生活が当たり前の日常となり、何かをうっすら思うことすらなくなっていたのに。


彼と同じ香りがして、私の中で鍵をかけていたものまでも音を立てず勝手に溢れてきてしまった。


こんなに時間が経っているのに、思い出はどこまでも鮮明に美しく、そして切なく私の心を締め付ける。
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