嘘と嘘で始まる
タクシーに揺られながら、左手を見ると、慎也の右手にぎゅっと握られていて、離そうとしても無理。

今までも酔っ払って抱き合ったり手をつないだ事はあったけど、ほとんどしらふの時にこんな事なかった。

「慎也?」

つぶやくように声にすると、更に手を握り締められた気がした。

もしかして、私の気持ちに気がついたのかな。慎也の前の席で毎日一緒に仕事をしてたら、隠しているつもりだった気持ちに気付かれた?

『彼氏いてる女のほうが、俺の事友達って割り切ってくれるから居心地がいい』

知り合って間もない新入社員の頃に慎也が言った言葉。
なんて傲慢な男だろってうんざりしたけど、知れば知るほど惹かれていった。
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