Fate
 それは、美しい、とても美しい、それでいて、とても楽しげな歌声。

 だが、それはどこか切なく、悲しげな歌声。心に迫る、何かを乗せて、歌われる旋律。体全身を揺るがす、音の調べ。

「これが……“ターリーズの悪魔”?」
 ロズウェルの顔が血の気を失い蒼白になり、更に引きつった。そして、ロズウェルはその場で地団太を踏む。

「すいません、ごめんなさい、愛しのコウちゃん。わたくし、ロズウェル=ルイスはお化けの類が本当に苦手です。素直に謝りますから、どうか今回は勘弁してちょ。お願いだから一人で調査してきてください、本当にお願いします」

 ロズウェルは必死に懇願した。

 しかし、コウは聞く耳など持たずにロズウェルを引っ張っていく。ロズウェルはいっそう全力で抵抗する。

 コウはただ、立ち尽くした。風の音に邪魔されながらも、しっかりと響いたメロディー。とても懐かしい、旋律。一瞬ではあるが、確かに心を打った。確かに、あの日々を想い出した。

 コウの頬を、涙が伝った。右頬に一筋。続いて、左頬に一筋。そのまま、止め処なく涙が溢れ出た。

「あの子……こんな所にいたのね」流れる涙を拭おうともせずに、コウは呟き、座り震えるロズウェルのコートの襟を掴む。「ねえ、行こう、ロズウェル」
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