Fate
 コウの頬から滴り落ちた雫が一滴、ロズウェルの頬に当たった。そして、コウが泣いていることにロズウェルは気付いた。

「ど、どうしたんだよ、泣くなよ、コウ……」

 ロズウェルは心配そうに、仰向けの状態でコウの顔を覗き込んだ。

「貴方にはわからないの? 忘れたの? あの歌、あれは……」

 再び、コウの涙がロズウェルの頬に当たった。

 同時に、今度ははっきりとあの歌声が聞こえてきた。風に乗り、壁で響きながら。

 コウの目には、もうどうしようもないくらいに涙が溢れて、ロズウェルの襟元を掴んだまま、コウも座り込んでしまった。

「お、おい! 大丈夫か、コウ」言いながら、ロズウェルも気付いた。「まさか……まさか、これは……」

 コウは俯いたまま、ただ静かに首を振る。ロズウェルは両手で、強くコウを抱き締めた。

「あの子、どうしてこんな所に……」もう殆ど声にならない声で、コウは呟いた。

「たぶん、『賢者の石』だ……俺が教えた、何でも願いが叶う、魔法の石」

 息も出来ない程にむせび泣くコウを、ロズウェルはひたすらに強く強く抱き締める。お互いの存在を確かめるように、強く強く。
 そんな二人を包むかのように、狭い通路で美しい歌声は響き続ける。
 楽しく、切なく。嬉しそうに、そして、悲しげに――。
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