あふれる、ふれる。

むくっと、布団から起き上がるナナコを、しんちゃんはスローモーションをみるような気分で眺めてた。
「起きて大丈夫?」
その問いかけにこたえるように、ナナコはしんちゃんに手を伸ばした。

触れたかった、
しんちゃんにふれた。

すでにくしゃくしゃになっている黒髪に指を通すと、以前ようこがやっていたように、ナナコもくしゃくしゃっとかきまぜた。
「大丈夫。ありがとう。」
微笑みもせず、そういうとナナコはまた、布団にもぐった。
しんちゃんは意外なナナコのアクションに、にやりと笑った。
「なんだよ、元気じゃん。」
そして、布団ごしにナナコの頭にふれた。
「じゃ、またあした。」
その声をナナコは、爆発しそうな心臓の音越しにきいた。
カーテンをしめる音。
遠ざかる気配。
ドアの向こうで交わされる話し声。
すべてに現実味を感じることができず、ただ心臓だけが何かをナナコに訴えかけていた。
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