ショート シチュエーション{ Lovers Season }
雨に煙る街
雨宿りの軒先
雨に煙る街の向こう側
此方へ向かって誰かが
走って来る‥
その時、
私の中でカラカラと
フィルムが廻り始めた‥
『酷い雨ですね・・・』
劇場前
ズブ濡れの肩の辺りを
払いながら‥
にこやかに話しかける。
この空模様に似合わないほど
爽やかな笑顔で‥
『なかなか止みませんね‥』
そう話し掛けられて
なぜか応えるよりも先に
胸が“ドキン”と
音を立てた‥
雨足は更に激しさを増す‥
『止みそうにありませんね‥
参ったなぁ‥』
昼時を過ぎた午後2時
『あのー、良かったら
映画でも観ませんか?
雨宿りがてら‥
チケット代は僕が出しますよ。
済みません。
突然声を掛けて‥
驚きますよね‥?
あの、ナンパとかじゃなく‥
ここに居ると風邪
ひきそうだし‥
雨が止むまでの間、
好きな時に出られて
構いませんから‥』
確かにこの場所は肌寒かった。
しかし、上映作は苦手な
ホラー映画だ。
そんな事を考えながらも
心の何処かで
《運命の出逢い》かも
知れないと
さっきの胸の“ドキン”を
信じてみる事にした。