15のとき
「ぼくは…あの人(母親)となるべく接触しなくても済むように音楽活動に没頭したんだ。だけどある日新しい父親に言われたんだ。お前は医者になってこの病院を継ぐ以外に何ができるんだって…。
たしかにそのときはカチンときたし、自分は音楽でもやっていけるんじゃないかって考えていた部分があったんだ。
だけど、いざスカウトの声がかかったときにぼくは…はっきりイエスとは言えなかった…。どんなにひどい母親だったとしても、やっぱり世界でたった一人僕を産んで育ててくれた人だからその人の大切なもの…今度は俺が守らなくちゃって思うようになったんだ…。」



「勇気…。」




「だから、俺はミュージシャンの夢は諦め、医者になるんだ!って一旦は決めた。でも受験が近付くにつれ、本当に良かったのかな…って、わけの分からない不安が胸の奥でやけにうずまいてしょうがないんだ…。」






彼は一通り喋ってしまうと、宙を見つめた。



そして私に目を向け


「ごめんな…こんな話ばかりして…。」



と言った。
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