君、想ふ。
「……い、…おい」
声がする…。低くて、何だか心地よい。
「…ん」
「…おい、女」
夢の中の声かと思えば、どうも違う。余りにもはっきりと声が耳に通る。
ゆっくりと目を開ければ、ぼんやりとした視界に、黒が浮かんだ。
そして、私は目を大きく見開いた。自分の目に映る光景が、信じられなかったから。
寝ていた私の上に僅かに体重をかけて、こちらを見下げている若い男の人がいる事に。
そして何より、一番驚いたのは、自分の喉近くに刀の刃があったことだった。
「だっ、だだ、誰……っんぐ!!?」
騒ごうとする私の口を、男の人は大きな手の平で塞いだ。
「シーー…っ。少しは静かにしないか。…女、大人しく俺の質問に答えるか?」
刃が向けられていて、怖いはずなのに、不思議と頭の中は落ち着いていた。
肩にかかるか、かからないかぐらいの黒髪は後ろで小さく結われていて、服は着物を着ていた。群青色の着物の上に、羽織りを肩に引っ掛けている。
髪は黒なのに、瞳は茶色をしている。鼻は、すっ、としていて、唇は綺麗な形をしていて、綺麗な男の人だと思いながら、こくこく、と頷いた。
「それで良い。抵抗さえしなければ、お前に傷つけはせん」