∑[シグマ]
「…任せてって言うから何もしなかったのに…。」
石榴と千影は屋上から教室へと続く廊下を歩いていた。
そして、少し前を行く千影に石榴は不満を漏らす。
「…任せてなんて言ったつもりはなかったんだけどな、僕。」
「やっぱり、屁理屈…!」
此方を振り向き、相変わらずの愛想笑いでいる千影を石榴は大股で歩き、抜かす。紫黒の髪が揺れる。
「…でも、また夜に逢うだろう?彼には。」
千影のいつもよりワントーン低い声が廊下に響く。その後ろからの言葉を聞いた石榴は、ピタリと足を止めた。
「…彼はちゃんと寝ているんだろうかね。僕らと違って、普通の人間なのだから、大変だろうに。」
畳み掛けるようにして千影は言葉を続ける。
「…知らない、そんなこと。」
「だろうね、君は早く夜が明ける事しか考えていないのだから。」
「…本当にそうね。」
石榴はそうポツリと言うと、また歩き始めた。