∑[シグマ]
ビルの屋上。

世界が眠りに就いた刻。

そこには
二人の人間。


「―なぁ、死んでくれないか?」

その一人である、短髪の男は、刀の切っ先を目の前の月明かりに照らされたもう一人の美しい少女に向けた。


「…いつでも。」

長い黒髪を夜風に靡かせている少女は、そう答えて、薄く笑った。

自嘲気味にも思えるその笑みは、美しかった。


すると、
少年は自身のスニーカーをキュッと一回鳴らすと少女との間合いを詰めた。

そして少女に刀を振る―


が、いつの間にか少女は少年の後ろを取っていて、すかさず手刀をそれの首に目掛けて振る。

その動作が目の端に見えた少年は、体を反らせてそれを紙一重でかわす。

「くっ…」

少年は体を反らせたため、バランスを崩し後ろに倒れそうになるのを、腹筋で耐える。

「はっ…はっ…」

少年の息継ぎが眠りに落ちている世界によく響く。


少年と少女の一進一退の闘いはずっと続いている。





『…夜が明ける…。』
少女は、動きながら建物が建ち並ぶ先に光が差し込み始めたのを目の端で見つけた。


「…タイムリミットね。」


少女は急に後ろに一歩飛び、止まった。


「…また、逃げるのか!!」


少年は吠える。
そして、
少年は少女に突進をする。
少女はスッとそれを交わし、屋上の端から後ろ向きに落ちていった。


「くっ…」


少年はすぐさま、少女が落ちた所に駆ける。
その下を見下ろすが少女の気配は感じられなかった。


「く、くそぉぉぉ――!!!」

少年の悔恨の叫びだけが

目覚め始めた、世界に響いていた。
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