∑[シグマ]
夜明け始めた世界を、少女は体育座りで見つめていた。
「―…………。」
膝に顎を置いている姿は、先程壮絶な戦闘をしていた者とは思えないほど、幼い。
「…哀しいな。」
ふと、少女の後ろから、声が響く。
近づく気配に気に止めることはなく、少女はただ変わり続ける世界を見つめる。
近づいてきたのは、少女と同年代だろうか、だが大人びた印象を受ける少年だった。
髪の毛は前髪も後ろ髪も切り揃えてあり、
色素の薄いクリーム色が儚さを醸し出しているようだ。
「―総ての憎しみをその身1つで受け止めるのは。」
少年は、先程の言葉に繋げた。
「ー別に。」
少女は一言そう答えた。
「…いいの?彼に何も言わないで。」
「……今更何を言っても、アイツには…届かない。」
そういって、少女は、輝き始めた太陽に手を翳した。
「真実は時に残酷―ということか…?」
少年は眉に皺を寄せた。
「…もう動き始めた運命の針は止まらないから」
すると、
少年は少女の頭を軽くポンポンと撫でた。
「…?」
少女は後ろの少年の方へ振り向いた。
「あんまり、自分を追い詰めない方がいい。…君の悪い癖だ…石榴(ざくろ)。」
少年はそういって、柔らかく笑った。
少年の気配が消えたあと、ざくろと呼ばれていた少女は呟いた。
「……あたしたちは罪を背負い、罰を受けなければ…いけないのよ、千影(ちかげ)…。」