∑[シグマ]


「早速、授業を始めるぞ!…おい、もう寝てる馬鹿は誰だ!?」


田儀君でーす。と所々でクラスメイトが声を上げる。
隣ですやすや寝ている彼は、みんなから何かとからかわれやすい。愛されていると言えば、聞こえはいいが。


「また、田儀か…。もう怒る気も失せるな。…よし、ほっといて教科書124ページを開け。」



それでいいのか、先生。
思わず突っ込みそうになったが、何かと面倒になるのは嫌だったため、止した。

教科書に目をやる。
授業、といっても形だけだ。
この日本という国家は大昔に滅んだ。だから、この本も日本語で書かれてはいるが、中身はバルニア国史。この国の占領国の歴史を習う。その授業が一週間に十枠あるのだからたまったものじゃない筈だ。みんなは。

しかし、あたしは違う。
脳のキャパシティも違うが、とうの昔に覚えてしまったのだ。あの閉鎖された空間で。
そう、哀しくも、愛しささえ生まれたあの場所で。
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