∑[シグマ]
日本。
かつて、独自の文化が栄えていた国。しかし、現在ではその文化は言語だけが残っている。
天皇制は廃止され王政に。建物も、バルニア式の物が立ち並ぶ。学校だけは、まだマシでかつての日本の面影はあるらしい。
まぁ、今の日本の国民にとっては、バルニアとか日本とか気にならないらしいが。
ただ安心して生きていけるなら、国の名前などどうでもいいらしい。

ただ、その平穏はもうすぐ破られようとしている。
少数ではあるが、かつての日本が忘れられない人々だっているのだ。


自分はその災禍のど真ん中に知らず知らずの内に入ってしまっていた。
あの場所の者達と
かつての同胞達のお陰で。



そして、隣で呑気に寝ている彼も。
…ーあたしの所為で、巻き込まれるはずだ。




「そう、あたしの所為…だ」


「……なんか言ったか?」


急に聞こえた声に、思考に沈んでいた頭が現実に一気に戻ってくる。

「っ……な、何にも…。…そ、それより田儀くん、起きてたの?」



心臓の鼓動が普段よりも速いことを感じながら平静を装い、机に伏せてはいるが此方に視線を向けている皇に問う。


「…ん〜、今起きた。そしたら、篠宮さんの声がした気がしたから。…気のせいだったんだ、ごめん…」


ふぁぁ〜と欠伸をして、皇はまた頭を机に完全に伏せてしまった。



「ちょ、………何なの?」




柘榴は、聡いのか疎いのかわからない皇に眉を寄せた。
しかし、すぐにその顔を無表情に変える。

そして、この他の人間とまったくといって変わらない彼が、無事に生き延びますように。
と、額の前で手を組んだ。




信じてもいない神に祈る。昔、彼がやっていたように。
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