保健室の彼
ケガはすっかり治って、
メモの番号に電話する用事はなくなってしまった。
でも、あの事故以来、彼のことが忘れられなかった。
水嶋諒さん。
綺麗で、スラっとしてて、知的で、優しくて、誠実そう。
同じリョウでも“あいつ”とは大違い。
私はわりとモテたけど、他の男のコには興味が持てなかった。
わかってる。
夢見る乙女じゃあるまいし、こんなの馬鹿げてる。
青春の無駄づかい。
でも、彼のことしか考えられない。
そんな状態のまま、時は流れて
私は中学3年生になった。
成績はよかったけど、特に目標なんかなくて、
親と先生のすすめるままに、地域一番校に入る
予定だった。
あの日、
私は友達と一緒に学校見学に行った。
すべり止めの水都高校。
私も友達も、進学校の合格圏だったんだけど、心配性の友達がどうしてもって言うから。
縁のない高校だし、適当に歩いて、そろそろ帰ろうかなって頃。
保健室の前で、私は固まった。
向こうから歩いてくる白衣の綺麗な人。
間違えるはずない。
私がずっと想い続けてきた彼だ。
彼は保健室に入っていき、
次の春、
私は、縁がなかったはずの水都高校に入学した。