もう、いいの。

高校の時の憧れは、

今も健在のようだ。

怒ったような目が、

じっとあたしを見ている。

けれど、ふっと、

その目から力が抜けた。

手を、離した。


「ここの社長、

母の爺ちゃんなんだよ。

だから、

まっとうな履歴書で入社した。

何にもやましいことはない。」

言葉と裏腹に悲しい目をした。

そんな目で見られたら、

あたしは一人で悪者じゃないか。


「あたしは何も。」


彼はぴくりと反応した。


「何も、言わない?」


「うん。」


「本当に?」


「うん。」


彼は、にっこりとほほ笑んだ。



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