もう、いいの。
「時田学です。よろしくお願いします。」
その名前と、声に、
あたしは無条件に顔を上げた。
時田って。
学って。
高校生の時、
かっこいいなあと思っていたヒトと
同じ名前だった。
いつもチャリンコで追い抜きながら、
電車通学のあのヒトの背中を
眺めていたのだ。
ああ、今日も、かっこいいな。
振り返って、
正面からも見ていいかな。
けれど、あたしは追い越すと、
ちらりとも振り返れないままだった。
純情可憐なあたしの思い出は、
それだけなのだけれど、
そこに立っていた姿を見て、
心臓がぐっさり刺された気がした。