もう、いいの。


「時田学です。よろしくお願いします。」


その名前と、声に、

あたしは無条件に顔を上げた。

時田って。

学って。

高校生の時、

かっこいいなあと思っていたヒトと

同じ名前だった。

いつもチャリンコで追い抜きながら、

電車通学のあのヒトの背中を

眺めていたのだ。

ああ、今日も、かっこいいな。

振り返って、

正面からも見ていいかな。

けれど、あたしは追い越すと、

ちらりとも振り返れないままだった。

純情可憐なあたしの思い出は、

それだけなのだけれど、

そこに立っていた姿を見て、

心臓がぐっさり刺された気がした。


< 2 / 35 >

この作品をシェア

pagetop