愛しいキミへ


蝉の声がうるさいくらいに聞こえてくる。
夏真っ盛りな今日はいつにもまして一段と暑い。
時折、吹く風が気持ちいいけどすぐに暑さに吸い込まれてしまう。

受験、控えてんのに…


病院へと続く一本道を歩きながらその事だけを考えてた。

夏休みに入って三日目。
お母さんが入院した。

理由は妊娠。

今年30後半になるお母さんはまだ子供を産もうとしてる。
そのためにあたしは今こんな暑い中歩いてると思うと腹が立ってくる。

そりゃ、兄弟ほしいなって思ったことならあるけど今は望んでない。
だってもう半年で受験がある。
本当なら今頃は、冷えた麦茶を飲んで参考書を開いて勉強してるはずなのに。

暑いからなのか怒ってるからかは分からないけど顔が火照ってくるのが分かった。
夏は嫌い。
暑いのにどうにもする事ができないから。


ふと目に入った花屋をみて昨日の母の言葉を思い出す。

『奈々、病室ちょっと寂しいからお花買って来てくれない?』

面倒だけど、忘れたと言ったらすぐにでも買って来いと言われかねない。
しぶしぶあたしは花屋へと足を進めた。

看板の文字は英語でよく読めないけど、外装は綺麗なお店。

押す形のドアを押すと中から冷房の冷たい空気が頬を掠めた。
それから甘い花の匂いが漂ってくる。

「いらっしゃいませ」

と明るい声が聞こえた。
その方向を見るとエプロンをした店員さんらしき人とお客さんみたいな人が話してた。
まだかかりそうなので店内をぐるっと見回す。

色とりどりの花が置いてある。
花屋に入るのはこれが初めてじゃないけど、何だか初めて来たような気持ちになった。
そう言えば、前に来たのは小学校低学年だった気がする。

一番、目につくところに置いてあったひまわりを見つめる。
ひまわりが花屋にあるのは初めて知った。
綺麗な黄色の花びらと黒い真ん中の部分がはっきりしていておもしろい。



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