蒼い月を見つけたら
「おはよう、ミア♪」


 寝室を出ると、ルイトが満面の笑みで迎えてくれた。

 窓から光がいっぱいに差し込んでいた。夏の太陽は今日も燦然と存在していた。


「おはよう、ルイト。」


 ミアも笑顔で返す。

 まだ昨日今日あったばかりの関係なのだが、なぜかルイトといると気が安らぐ――そうやって考えずに信用してしまうことがどんなに危険か、頭の片隅ではわかっていたが。
 信じたいという心と信じては危険だという理性の間でいまだミアは迷っていた。



「どうする?ごはんにする?それとも二度寝?」

「・・・ごはんがいい。」

「了解♪」


 ルイトはにこっと笑ってキッチンに向かう。

 着替える服があるはずもなく、ミアは昨日から薄汚れた服のまま。せめて手についた血くらいは落としてこようと思った。


「顔洗ってくる。」

「はーい♪ごゆっくり♪」


 キッチンのほうからの返事を待たず、ミアは洗面所に向かっていた。




 乾いてしまっていた血は水で流さなくてもぱらぱらと剥がれ落ちた。

 それでもしっかりと洗い流してから鏡の中の自分を覗き込んでみる。そして、昨日ルイトが言っていた言葉を思い出した。


――髪は黒と見せかけて実は濃い青。

 確かに。


――長さは耳くらいかな?うーん、いつものことなんだけどけっこうぼさぼさ。

 うるさいなぁ。余計なお世話だよ。


――目の色がね・・・すっごくキレイな青色なんだ。サファイアだね♪

 サファイア。
 そう例えたルイトの気持ちがよくわかる気がした。

「グリーンランドの湖、か・・・」


 小さくため息をついてもう一度鏡の中の自分の瞳を見てみる。

 自分の目とは思えないくらい、綺麗だ。まるで、本当に宝石のよう・・・

「ミアー。ごはんできたよーっ。」

 ルイトの声にはっとする。


「今行く!」


 そして、一瞬だけ膨らんだ畏怖をかき消した。




――生きている人間の瞳じゃないみたいだ

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