蒼い月を見つけたら
02 : PRINCESS OF THE MOON

a - ENCOUNTER

 次に目覚めたとき、背中のコンクリートの感触はひんやりとしたものに変わっていた。

 太陽はすでに沈み、ほっそりとした月が紺の空に浮かんでいる。


 しばらくその月を見上げてから、今度はしっかりと右手をついて起き上がる。

 恐る恐る左手を見てみると、暗い中ではわかりにくかったが、やはり血がこびりついていた。
手のひら、甲、そして手首の辺りにまで・・・

 悲鳴をこらえてぎゅっとこぶしを握ると、手首に鈍痛がはしった。
それと同時にぱらぱら、と血の欠片が剥がれ落ちた。


 ドクン ドクン


 耳のそばで鳴り響く心臓の音を鎮めるように目を閉じる。


――落ち着け。落ち着くんだ。


「はああーーっ。」

 わざと大きな音をたてて深呼吸すると、少しだけ落ち着いた。

 ゆっくりと目を開いてぐっと唇を結ぶ。驚いている場合ではない。とりあえず、これからどうするかを考えなくてはいけない。

 しかし・・・


「あれ?」


 思い出せない。


 なぜここにいるのか、手に付いた血は何なのか、ここは何処なのか、そして・・・

「わたしは、誰・・・?」

 自分の口からでた疑問が信じられなかった。

 ゾクリ

 背筋に寒気が走る。
本当にわからない。
自分が誰なのか、名前は、歳は、友達の顔一つ思い出せない。

 何もわからない。


「嘘・・・。」

 ぽっかりと何かが抜け落ちたような感覚。
今までにない喪失感。
心の内側からザクリと鋭利なナイフで削られたかのような悪寒・・・全身が震えだす。

 怖い。


――何もわからないのが怖い。


 心が、痛い・・・

 その痛みに耐え切れずに両目から雫が滑り落ちた。


 ぽろぽろぽろ・・・


 涙がえぐられた心の傷にしみたかのように、胸の痛みがおさまらない。それどころか酷くなっていく。

「う・・・。」

 とうとう嗚咽を漏らそうとしたとき、突如後ろから声がした。


「こんばんは、お嬢さん♪」

「!」


 驚いて振り向くと、そこには先ほどまで見られなかった人影。

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