蒼い月を見つけたら
「カイ・・・ひどいよ~。」


 思い切り眉を寄せたカイの後ろから、ルイトの恨めしげな声がした。


「いきなり突き飛ばすなんて・・・ちょっとくらい話聞いてくれたっていいじゃない・・・」

 ぶつぶつ言いながらルイトがリビングに入ってくる。


「なあ、ルイト。ミア、さっきから変じゃねえ?」

「さっきからじゃない、昨日からだよ。なんかミアってば、なあんにも覚えてないんだもん。」

「は?」


 カイはまたも眉を寄せた。

「だ・か・ら。ミアは記憶喪失らしいって言ってるの!僕は!」

 頬を膨らませてカイに向かって言い聞かせるルイト。

 対するカイはきょとん、としてミアを見た。


「・・・ミア?」

「ほんと、だよ。」


 どういう顔をしていいのか分からなかった。

 いまだにずきずき痛む左手はカイが握っている。その手をたどれば、呆けたように自分を見つめるカイの顔――光を帯びた灰色の瞳。


「俺の名前わかる?」

「・・・カイ。」

「よかった。じゃ、いいや。」

「・・・いいの?」



 思わず眉を寄せたミアとは裏腹に、カイは両手で左手を包み込んだ。

 暖かい光がカイの両手とともにミアの左手を包む。それに伴って、痛みがスーッと引いていくのがわかった。


「これでよし。」

「あ、ありがとう。」


 ミアが素直に礼を言うと、カイはびっくりしたようにミアを見た。


「ルイト、聞いたか?ミ、ミアが礼を・・・」

「うん。今のミアって、いつもの百倍くらい優しいんだ♪」

「あ、ありえねえ・・・」


 カイはよろよろと立ち上がり、ミアの隣の椅子にとんと腰を下ろした。


「いいじゃない。僕はこういうミアもいいと思うよ♪」

「・・・」


 ミアという少女は、どんな人物だったのだろう?

 まあ、自分なのだが・・・

 ミアの中で疑問は膨らむ一方である。


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