蒼い月を見つけたら
「ルイト。」


 と、その瞬間、無意識に自分の口から言葉が滑り落ちた。

 どういうことだ?一気に頭の中が混乱する。


「何・・・?あなたの名前、ルイト・・・?それに誰もいなかったのにどこから・・・」

「何をぶつぶつ言ってるのかな?あーでもよかった、無事で。カイは?一緒じゃないの?」


 それは、二十歳前後であろうと思われる青年だった。月をバックにしているせいで顔立ちはわかりにくいが、にこにこと笑っていることだけは雰囲気で伝わってきた。

 と、ふと青年の声音が変わる。


「あれ?」

「え?」

「どうしたの?」


 心配そうな声。それが自分の頬を伝う雫によるものだと気づくのに時間はかからなかった。

「あっ。」


 慌ててふき取ろうとして、血のついた左手を使ってしまったことに気づく。

「その手も・・・何があったのさ。」

「・・・わからない。」


 かろうじてそれだけ言った。
 ルイトという名だと思われる青年はいぶかしげな顔をする。


「待ってよ、さっきからおかしいよ?君らしくもない。」

「おかしいって・・・あなたはわたしのことを知っているの?」

「え?」


 ルイトは驚いたような声を出した。

 と、次の瞬間つかつかと歩み寄ってきた。

 逃げる間もなく距離をつめられる。


「なっ・・・。」

 上体だけ起こしている自分に覆いかぶさるように後ろから覗き込んできた。
やっと青年の顔をはっきりと見ることができた。

 世間一般的に言って、至極整った顔立ちをしている。
くっきりとした二重まぶた、そこに収まる淡い茶色の瞳。
肌の色は抜けるように白い。
通った鼻筋と形のよい唇とをあわせると絵に描いたような美青年になる。


「あれ、逃げないね。君の力なら簡単に逃げられるだろうに。それに、攻撃もしてこないなんて。」

「どういうこと?逃げるとか。」

「本当にわからない?」

 そう問われて、間髪いれず頷く。

「へえ。」

 その青年がじろじろと自分を観察しているのが分かったが、どうしようもなかった。
 変に抵抗するのはまずい気がした。


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