蒼い月を見つけたら
d - THANK YOU
――ピチョン
天井にたまった水滴が湯船に落ちて雨音のような響きを奏でる。
「はあ・・・」
湯船に肩まで浸かったミアは、大きく嘆息した。
やっとゆっくりできた気がする。
昨日目が覚めてから。
ルイトと会って、このマンションに来た。ああ、その前に敵らしき女の人と会った。名前はサリナといっただろうか。それから今日になってカイが来て――もう逃げ出してしまったが――ユリアとテツヤがやってきた。
整理しようにもいろんなことがありすぎて無理だった。
とりあえずゆっくりと手足を伸ばしてみる。
パシャン
水面より上に出た左手を見て、カイの銀色の瞳を思い出す。
「どこ行ったのかな、カイ。」
ベランダから飛び降りてしまう寸前に見た漆黒に近い紅の髪と銀の瞳が目の奥に焼きついている。
「ふう。」
もう一度ため息をついてバスタブの縁に頭をもたげた。
よく考えたらカイに泣き顔見られたなあ・・・
ほとんど初対面なのにずっと昔から一緒にいた気がするのは、やっぱり心の奥に少しは覚えているせいなんだろうか。
ルイトもカイもそしてユリアもすんなり自分の心の中に入ってくる。それが不思議で仕方がない。
不思議?
いや、まったく不自然ではない。あまりに自然すぎて、怖いくらいに。
そしてミアはふと気づいた。
『どうしていいかわからなくて怖い』という感情が、ずいぶんと薄まってしまっていることに。
さっきまではあれほど怖かったのに。心のうちを抉り取られて、それがむき出しになったかのように。どうしようもない喪失感で押しつぶされそうなくらいに。
「カイのおかげ・・・なのかな?」
ゆっくりと目を閉じて、もう一度カイの勝気な目を思い出す。そして、あのときのひどく優しい光を灯した瞳も。
そして、さっきは言い忘れてしまった言葉をそっとつぶやいた。
「ありがとう、カイ・・・」
――ピチョン
代わりに答えるように、もう一度水の音が響いた。