蒼い月を見つけたら
e - FORGET
「ミア・・・?」
「よう、ルイト。相変わらず腹の立つ顔してんなあ、お前。」
「え?」
驚いた様子のルイトにかまわずミアはつかつかとカイに歩み寄る。
「ミ、ミア?」
「すまない・・・」
すこしだけ目を伏せて。
「痛かっただろう?」
苦しげな表情。
「おま、ミア・・・?」
カイがうまく言葉を紡げないでいると、ミアは不機嫌そうに眉をしかめた。
「全部、見てた。」
「?」
「『イレブンス』がわたしに術をかけたのも、自分がカイを攻撃したのも見てた。その後からは分からない。気がついたら、屋上に転がってた。」
それからも、まるで夢でも見るようにぼんやりと眺めていた。
ルイトに救出されてカイやユリアに会うところも。
「怖かったんだ。わたしはお前を攻撃してしまったから」
全身を稲妻が貫いたようだった。
決して口には出さない。態度に表すこともない。それでも、心の底から大切に思っている人を自分の手で傷つけた。
遠ざかっていくあの表情(かお)をどうして見ていることができただろう。
精神的にも肉体的にも深く傷つけてしまった後で、どんな顔をして前に現れることができたろう。
「ほんとに・・・痛かっただろ・・・?」
ぽろ
透明なしずくが頬を伝った。
「あれ?」
さも意外そうな声を自分で出してしまったことにまた驚いたが。
「・・・っっ!なんでだ?こんなことで・・・。」
カイすらもミアの流した涙に驚いて動けなかった。
記憶をなくしたミアならともかく。
今のミアは・・・
「覚えてるんだよ。きっと。」
「なに?」
ミアがルイトを振り返る。
「優しい時のミアの気持ち。すこーしだけみたいだけどねっ♪」
「・・・」
普段なら一を聞いて十は返すミアなのに。
本当に少しは記憶をなくしていた間のミアの影響が残っているのだろうか。ルイトの言葉をかみ締めるように、頬を伝う涙の感触を確かめるように目を閉じた。