一生分の恋
マイが求めるのは、やっぱり男なんだろうか。男以外は恋愛対象としては絶対に圏外。
離婚で母親ひとりに育てられたマイが、父親像を恋人に描いているのはむしろ自然の事のように思えた。
つまり、傷跡ひとつないような、キレイな肌をしている女の告白など、到底信じられるはずもない、という事だ。
自分は体育も得意で、腕力も強い。声も低く、それほど女の子らしい要素は多くなく、周りの大人達はみんな、ボーイッシュだと評していた。
髪が短い頃は男の子と間違えられる事もしばしばで、それが嬉しかった事も良く覚えている。
しかし、この程度ではダメなのだ。マイに男だと認められるようにもっと自分を変えなければ!
この日は金曜日だったので、取りあえず明日は髪を切る。
そして今日からは腕立てと腹筋をやろう。回数は決めずに限界までやる事。
ある程度、自分が納得できるまでは、マイには会いに行かない事。
一週間が経った。髪は、後ろが刈り上がるくらいまで短くした。筋トレも続けた。
傷跡を付けよう。
家族がみんな寝静まった夜。取りあえずロウソクを肘から先の腕に垂らしてみる。
それなりに熱いが、とても火傷にまではならない。
工作用カッターナイフを取り出す。
刃先を肌に押し当て、手前に滑らせる。
白っぽく跡がつくだけで、傷にはならない。
刃先が食い込んだのを確かめてから、一気に刃先を動かさないとダメなんだろう。
しかし何度やっても血が出るまでの傷は付けられない。
なんて意気地のない…
あまりの情けなさに泣きたくなった。
こんなカッターが食い込む痛みを怖がっているようでは、どうにもならない…
次の日の朝。
案の定傷など残っているはずもなく、改めて落胆して。
その晩もカッターを手に取った。
肌に刃先が食い込む瞬間が怖いのならば、押し当ててから刃先を動かすのではなく、一息に、スパッと切れないだろうか。
しかしいざとなると、躊躇してしまう。
右手にカッターを握りしめ、左手を凝視しながら…
鼓動が早くなる。
早くやってしまえ。
しかし手が動かない。
3、2、1…
カウントして、スッと…
離婚で母親ひとりに育てられたマイが、父親像を恋人に描いているのはむしろ自然の事のように思えた。
つまり、傷跡ひとつないような、キレイな肌をしている女の告白など、到底信じられるはずもない、という事だ。
自分は体育も得意で、腕力も強い。声も低く、それほど女の子らしい要素は多くなく、周りの大人達はみんな、ボーイッシュだと評していた。
髪が短い頃は男の子と間違えられる事もしばしばで、それが嬉しかった事も良く覚えている。
しかし、この程度ではダメなのだ。マイに男だと認められるようにもっと自分を変えなければ!
この日は金曜日だったので、取りあえず明日は髪を切る。
そして今日からは腕立てと腹筋をやろう。回数は決めずに限界までやる事。
ある程度、自分が納得できるまでは、マイには会いに行かない事。
一週間が経った。髪は、後ろが刈り上がるくらいまで短くした。筋トレも続けた。
傷跡を付けよう。
家族がみんな寝静まった夜。取りあえずロウソクを肘から先の腕に垂らしてみる。
それなりに熱いが、とても火傷にまではならない。
工作用カッターナイフを取り出す。
刃先を肌に押し当て、手前に滑らせる。
白っぽく跡がつくだけで、傷にはならない。
刃先が食い込んだのを確かめてから、一気に刃先を動かさないとダメなんだろう。
しかし何度やっても血が出るまでの傷は付けられない。
なんて意気地のない…
あまりの情けなさに泣きたくなった。
こんなカッターが食い込む痛みを怖がっているようでは、どうにもならない…
次の日の朝。
案の定傷など残っているはずもなく、改めて落胆して。
その晩もカッターを手に取った。
肌に刃先が食い込む瞬間が怖いのならば、押し当ててから刃先を動かすのではなく、一息に、スパッと切れないだろうか。
しかしいざとなると、躊躇してしまう。
右手にカッターを握りしめ、左手を凝視しながら…
鼓動が早くなる。
早くやってしまえ。
しかし手が動かない。
3、2、1…
カウントして、スッと…