一生分の恋
鋭い痛みが走ったが、たいした事ではない。
傷は、出血こそしていないが、皮膚に裂け目が入っている。

この調子で次はもっと強く…

相変わらず、動悸がしているが、躊躇は無かった。
スパッと…
今度の痛みは強い。でもやはり一緒の事なので、注射のようなものか。

血がでている。傷の線に沿って、きれいなルビーのように真っ赤な玉が膨らむ。

しかし、流れるまでは出血しない。

その後も何度かやってみたが、やはり流血まではしない。

学校では、こちらからはマイには接触しない。
マイは少しだけ寂しそうに見えたが、気のせいかも知れない。

今度、本気で好きなんだ、と言うときまでに、自分は変わらなくてはならない。

それなのに、根性ナシの自分は、跡が残るような傷さえ負えずにジタバタしている。

マイには、まだ気に入った男子はいないようだが、いつか誰かを好きになるかも知れない。

そうなったら生きて行けない。

それから毎晩、カッターを握りしめ、左手を切りつけ続けた。

傷と傷が交差するところは、血の玉が大きくなるので、できるだけ交差点が多くなるように、格子模様に刃を滑らせる。

そのうち、数を数える事にした。意気地なしの自分も、100回、と数を決めるとそれなりの傷を付けられるだろう。

30、40辺りで、痛みを感じなくなる。
痛みを感じなければ、深く切れる。

80回くらいから、血の玉がお互いくっ付いて、前腕の一面が真っ赤に染まる。こうなれば、傷の位置も解らなくなるので、もう手当たり次第に切りまくる。

血がべったりと張り付いた腕を見て、なんとなく幸福な気分になった。

端から見れば、精神異常も疑われるが、マイのために血を流せる自分に満足していた。

もう意気地なしじゃない。あとは、この傷が跡になるか…
一生残る傷跡になるか…
翌朝、傷の一本一本が赤い線になって浮き上がって、自分で見てもぞっとするくらいだった。

北国の初夏は、まだまだ長袖着用で、生の傷を人目にさらす事もない。

腕全体が熱を持ってズキズキと痛んだが、我慢できないほどではなく、むしろ妙な満足感に浸っていた。

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