一生分の恋
しかし、傷はかさぶたになって、きれいに治癒した。
よくよく見れば、うっすらと白っぽく線が走っているが、ほとんど消えている。

これではダメだ。

そろそろ夏休みに入る。学校の連中の目を気にせずに傷を付けられる。

カッターのような鋭利な刃物の傷は治りが早いと聞いた事がある。

ある夜、カッターからハサミに持ち替えた。
ハサミの一本の刃だけを使い、カッターのときと同じように、切りつける。

かなり慣れて来たようで、カウントしなくても無我夢中でハサミを動かす。
傷は深く、太く、血が流れる。絨毯が汚れると面倒なので、窓から腕を突き出し、地面にポタポタと垂らしていく。

切っている間は痛み感じない。一種の興奮状態で、皮肉にもマイの事すら考えていない。

腕が傷口で覆われ、ハサミを押し当てる場所が無くなり、ふと我に返ったようになって、洗面所で血を洗い流す。
水で流しても湧き出す血は、適当にティッシュで押さえておく。

さらにバケツに水を汲み、血を垂らしていた庭の砂利に、同じく窓から水を撒く。
親にバレたら、いろいろと面倒だ。

ここまでやって、痛みが襲ってきた。ズキズキとしびれるような痛み。
しかしこの痛みが、マイへの恋心が本物なんだということを実感させてくれる。

そして幸福な気持ちになる。
片思いはツラいものかも知れない。
でも、この傷跡が一生残ってしまっても、後悔はしないだろう。

突然、無性にマイに会いたくなった。
夜中の2時。
迷わす玄関から外に出た。
マイの家に行った所で、この時間に会えるはずもない。
でもこのままでは眠れそうにない。
今は夏休みで学校でも会えない。

外は風が涼しくて気持ちいい。自転車だと5分程だが、歩いていくことにした。

マイは起きているだろうか。会えなくてもいい。マイの住んでる家を見て、気配を感じて、それだけでいい。

傷が痛い。
マイを想う痛みだから、少しも苦にならない。
自分がマイを好きだという証明。

大人なら刺青とかを入れるのかも知れない。
でも自分には、この方法しかない。

マイの住む棟は…

棟の二階の端っこの部屋。
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