一生分の恋
いつの間にか外は闇に包まれて、行き交う車のライトをぼんやりと眺めていた。

幸福だった。
時間が止まればいい。
マイも同じ気持ちならもっといい。

ふと、思いだした。
何日か前のニュース。
中学生の女の子二人が手を繋いで、学校の屋上か飛び降り自殺を…

「ねぇ」
躊躇もなく、自然に声が出た。
「一緒に死のうか」

言い切ったとたんに、鼓動が騒ぎ出した。
マイとなら、マイのためなら死んでもいい。

そう思ってるのは、ひとりよがりなのか?
でも、さっき彼女は自分にだけ(たぶん)過去の確執を告白した。

「それいいね」
少し微笑みを含んだ声が帰ってきた。

「こうやって手つないでさ」

二十センチの近さにあった手を、ぎゅっと強く握る。

「あのビルがいいかな」マイが目の前の七階建てくらいの病院をが指差した。心底楽しそうに。

「それいいね」
自分も幸せだった。
彼女が、冗談でも自分と一緒に死んでくれると言ってくれた事に。

自分はもう孤独じゃない。居心地の良くない家族とも、無意味としか思えないクラスの連中との付き合いの中でも、少なくとも死ぬ時はマイがいる。

今なら聞けるような気がした。いつも心に住み着いている疑問。

「マイってさ、好きな人いるの?」

「さあね。教えない」
笑みを含ませた声が答える。

「あんたはどうなのさ」
「マイが言わないならいわない」

ここで告白してしまおうか…
しかしダメなら友達でもいられなくなる。
しかし今の状態だって、正常な友人関係とは言えないだろう。

彼女を一番知っていて、彼女に触れて、触れられて、独占して、愛して、愛されて。あのしなやかで白い肌を裸で抱きしめる想像だってしてしまう。

「あんたの好きな人ってあたしでしょ」

内心かなりびっくりしたが、自制心を振り絞って何気ないふうを装う。

「そうだったらどうするの」

さぁ、なんと返事をしてくるか?動悸が激しくなってくる。心臓が肋骨をドンドン叩く。
この動揺が顔に出てないか?赤面したりしてないか?

「なんともしない」

これ以上ない無関心な冷たいセリフ…

でも相変わらずの薄笑いの表情を見て決心した。
「そうだよ。好きだよ」



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