聖男子マリア様 番外編  俺様天使奔走中につき
あいつがきちんとした別れ方をしていれば。
相手も納得していれば。


自分がわざわざ出向くような事態にもならなかったはずなのに。



白くにじむ天の空。
そこにはいくつもの虹が走っている。

その空を背負い立つように、鬱蒼とした森がそこにある。


深い深い緑の森。
風もないのにざわり、ざわりと揺れている。


自分の姿を見つけた途端、殺気に満ち溢れる木々たちに、もはやため息しか出ない。



「嫌われてるわね、ここでも」


聞きなれた女の声に、ゆっくりと視線だけ左に向ける。


茶色の長いゆるやかにウェーブした髪に、はっきりした目鼻立ちの細身の女が、自分の隣に立って、森の入口で威嚇し続ける木々たちを見つめていた。



「おまえだったとはな、『マリア』」


マリアは顔をこちらに向けると「意外だったかしら?」と首をかしげて見せた。



「別にあなたのためにここにいるわけじゃないわ。私は『あの子』のために来ただけよ。『あの子』が私のためにしてくれたことを、きちんと返したいだけ……」


そうか。
あいつのためになら納得がいく。



「帰れなんて言葉は聞かないわよ。あの子がいない今、あなたの力を解除できるのは私だけ。まぁ、もう役職から外れているから、あの子みたいな完全体にはしてあげられないけれど。人間のまま、地獄へ殴り込みにいくよりはよっぽど良いでしょう?」


チッ。
地獄まで行くってことを知ってやがったか。






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