百物語骨董店
コツコツ…

誰かが部屋の扉をたたく
誰だろう…もう何もかも面倒だ

コツコツ…

また叩く

確かロックはかけていない

私以外のあの娘が
いつでもあの人に会いにいけるように―

「コノママジャ死ヌゾ」

突然の太い男の声がした
寝そべったままうっすらと瞼を開くと
あの店の店主が立っていた

今の声は…?店主の声じゃない
部屋の中には私と店主しかいないはずだ

美しい店主は私を無表情で見下ろす

「やはり 約束は守って頂けなかったのですね」
漆黒の髪に濡れた瞳

返事もせず見とれてしまう

店主は包みをひとつ持っている

「ヒトツ聞ク」

店主は口を開かないのにまた男の、太い声がする
「生キタイカ」


その声を聞いた私は徐々に意識がはっきりとしてきていた

「…この声は」

店主は黙ったまま包みの赤い紐をといた

それはいつの日か店主の腕の中にいた
フランス人形

フランス人形は確かに言った

「ソレトモ死ニタイカ」
と。


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