百物語骨董店
…ぴちょ

…ぴちょ

いつも
ぼう 、と玄関が少し白く煙るように女は現われる

長い髪の毛からは水滴が落ちて

灰色のコンクリートを黒く染める

にごった瞳は確かに


美しい店主を見た


「久し振りだな」

…ワタシノ ダッコチャンハ ドコ

女の唇がぬるぬると動く
私はガチガチと震えてナイフを口から落としそうになった
ダッコチャンハというのは状況から考えて私ではないか

「あの娘は生きている。お前の抱き人形ではないもう離してやってはくれまいか」

店主は冷たい表情だ

…サミシイ ダレモワカッテクレナイ
アノコ ワカッテクレテイル

女ははじめて玄関から手をのばし、部屋にあがり私を探そうとした

…ダッコチャンハドコ

不思議だが私の姿が見えないようだ

店主が女の腕をつかんだ
…ハナシテ


…イマモムカシモ アナタハ ワタシヲ ミテクレナイ


恐ろしいけれど切ない気持ちが伝わってきて

涙が流れた


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