百物語骨董店
気がつくと


私はあの店の前に立っていた

ショーウィンドウの奥にはオレンジ色の明かりがついている
重厚な木製の扉にはOPENの札


少しサイズがあわないかと思っていたワンピースもいつの間にか身体にぴったりと馴染んでいる


フフフ…

ふと、女の笑い声が聞こえた気がした
その時

「お待ちしていましたよ」

店の扉が開き、美しい店主がそこにいた

「あの、私…」
柄にもなくもじもじと俯いてしまう

「せっかくいらしたのですから、お茶にしましょう。もうすぐ当店のティータイムです」
そう言って店主は手を差し出す

少し照れくさそうに微笑む店主の表情に惹かれて手を伸ばす

私、恋をしているんだわ

仕掛け時計の人形がくるくると踊り

フランス人形が歌う

あぁタノシイ

ワタシ恋シテイルンダワ

ワタシ、


コイヲシテイルノネ


店の中で楽しい時間が流れた

美しい店主は私の耳元で囁く

「約束は守れていますか?」

夢見心地の私はすらすらと嘘をつく

「ええ。もちろん。」

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