いとしのかずん
「ねえ、巧?」

再び、敦美の声。

「ん?」

「あの子、彼女?」

「は? 全然、んなことねえよ」

「そっか、じゃあ……片思いなんだな……」

「片思い?」

その言葉に、思わず反応してしまい、ガバっと体を起き上がらせた。頭がぐわんぐわんとして、脈をうつたびズキンズキンと痛む。まるで、プールから上がった直後のような、なんともいえない体の重さを感じた。

「いてて……」

眉間にしわをよせている俺の顔を、敦美がのぞきこむ。とっさに、自分の顔がかなり汚いだろうという事実を思い出し、敦美と逆のほうへ顔をそらせた。
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