いとしのかずん
「別に、んなことねえって、ろくに話もしねえし」

「ふうん……そうなんだ……ま、いいけどね……それより、まだ熱あるの?」

そう言うと、敦美はゆっくりと近づいてきた。それでなくても、顔を見られたくなくて、あえて背を向けていたというのに、そんなことおかまいなしといった感じで、おもむろに手を俺の額にあてがってきた。

「お、おい、いいって……きたねえから……」

あわてて顔をそむける。たぶん、かなりオイリーになっているだろう俺の額。そんなもんに触れば、きっと手もベタベタしてしまう。自分が、敦美のことを汚してしまうようで、それが嫌だったのだが、敦美はといえばそんな俺の気持ちなどどこふく風といった具合に、自分の額にも手を当て

「うーん、まだけっこうあるなあ……8度ぐらいかな」

と、つぶやいた。
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