それでも傍にいたい〜先生と生徒の逢瀬〜
「先生。」

「なに?」

階段を下りていると坂上くんは急に立ち止まり、小さく私を呼んだ。

「…俺、本気なんだ。」

真っ直ぐな澄んだ瞳に捕われる。もう逃げられない。―ううん、逃げようだなんてこれっぽっちも思ってない。

「私も、そうだよ。」

六つ離れてるけど、大好きなの。

「俺、ガキだから…嫉妬深いんだ。」

「…私だってそうだよ。ヤキモチ焼きなんだから。」

そう私はおちゃらけて言った。すると、坂上くんは再び口を開く。

「元カレ、イケメンなんだろ?」

「は?」

元カレ…章のことかな?
それとも大学生のときの?
どっちにしろびっくりした。

「田中から聞いた。」

「…田中さん…」

やっぱり喋ったんだ。

「章…彼とはもうなんでもないよ。」

あの夜は本当、記憶にないし。―それにあのことを、坂上くんに知られたくない。

「…そっか。」

イマイチ納得のいってないような表情だけどそう相打つを打って、また階段を下る。

その背中は広くて、がっしりしてて、後ろ姿すら愛しく想う。

そのとき、私は決めた。
ずっとあのランチのときから、タイミングを伺ってた。

章に言わないと。
"ごめん"と"ありがとう"を心の底からの気持ちを伝えよう。
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