それでも傍にいたい〜先生と生徒の逢瀬〜
気が付いたら、夕暮れ、そして満月が綺麗な夜空になっていた。

「…美加。」

穏やかな、私を呼ぶ声。振り返ると優しい笑みを浮かべてる章。
ときめきとは違うモノが心を締め付ける。

「章。」

章は低すぎるブランコに腰を下ろし、空を見上げた。
その横顔を照らすのは公園の街灯。章は数秒目を閉じ、私を見つめた。

「美加、」

「―章。」

胸が、痛んだ。私を呼ぶ声が今まで聞いた声と別のモノだった。こんな、弱々しい章の声は聞いたことない。

「…あのね、章。」

言わなくちゃ。これ以上、章を傷付ける真似はしちゃダメ。わかってる。だから呼んだんだよ。
でも、章のその弱々しい声に私の言葉はなかなか喉から出てこない。

「―わかってる。もう、わかってるから。…言って?美加の口から聞いたら、すっぱり諦められる気がするんだ。」

そう微笑むまるで天使のような章に、私の頬にはぬくいモノが伝う。

「ごめんっ、章…。私ね、この前―、嫌な女になった。章の気持ち利用しようとした。」

滲む章の顔。章と風景が混じり、視界には黒が目立った。

「章はいつも優しくて、そんな優しさに付け込もうとした。章を傷付けるのはわかってたはずなのに…私が楽になりたいからって、利用しようとした。それが、自分でも許せなくて…。」

章はなにも言わなかった。でも、よく見えないけれど、またいつものように優しく微笑んでいると思う。
章は優しいから。本当に、優しすぎるのが章だから。

「…私ね、もうあんな真似しないって誓ったよ?どんなに辛くても、くじけそうになっても、誰かを傷付けるようなことはしない。章が教えてくれたんだよ?」


私が涙を拭うとやっぱり章は笑ってた。私の本当に大好きだったあの笑顔。
ずきん、と胸が痛む。
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