探す為に、呼ぼう。
少年が何かを吹っ切ると、自然はそれを待っていたように、喜びの風を吹き、少年の背中を押した。温かい風と共に……。

「はぁっ……はぁ……」

緩い傾斜の山道を、一気に山頂まで登る。まだ幼い少年は、息を切らしながら、小さなお墓の前で立ち止まった。そして、呼吸を整え、お墓に向かって声を掛ける。

「久しぶりだね、飛房(とびふさ)」

そう言って、少年はお墓の前に座った。

「ボクがここに来るのは、初めてだね……」

少年が探していた物、それはそこにあった。草木が春風で揺られる中、探し物は堂々とそこにあった。

「ごめんね、飛房。君の事を忘れてたわけじゃないんだよ……。でも、でもね、ここに来ると君をより強く感じるから……だから」

少年は、目から涙を流した。頬を伝う透明な滴は、太陽の光りを受け、空色に輝いた。
少年が探していた物、飛房と言うのは少年が飼っていた犬の事だ。そして、少年の前にあるお墓は、飛房の物だ。飛房は一年前に車に引かれて、亡くなっている。
少年は飛房が亡くなってから、一度もこのお墓の前に立った事はなかった。

少年の涙が地面を濡らすと、少年の頬と手に冷たい物が落ちた。
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