繭(まゆ)
相変わらずの狭いお風呂。
カンカンと非常階段の鳴る音。
低い天井。
私の育った家。
これが嫌だった時もあったけれど、今となっては妙に懐かしく。
隣で母がすっかり寝入ったのを確認してそっとカーテンを開け、窓の外を覗いた。
月の光を浴びれば、元に戻るような気がして、
相変わらず手触りのかさかさとしたカーテンにくるまる。
バカみたい。
肉体はもうないのに。
ぼんやりと浮かぶ橙色の月をバックライトに、私が向かったのは
未だそのままにしてあるだろう、私の部屋だ。