繭(まゆ)
三歳児では、襖を開けるのも一苦労だ。

一度持ち上げてはめ込まれた部分を浮かし、音を立てないように左に移動する。
力の使い方を知っているので、わりと力はある方だろう。
他の子とあまり遊んだことがないので、わからないけど。



そうして出来たほんの隙間に体を滑り込ませる。



ああ、やっぱり

何も変わってはいない。


私が、お嫁に行った時のままだ。

この日に焼けた畳も、
本棚のない学習机も、
中味のない衣装ケースも、

この部屋は、何ひとつ変わってはいない。


椅子を引きずりながら持ってきて、埃も殆んどついていない本棚の奥をかさこそとすれば、


やはりまだそれはあった。


色褪せてはないが、何度も手に取ったから、多少くたびれた無印の封筒には


男にしては、信じられないくらい整った文字。



「○○県 ○○市 ○○ 南団地 303号

松本 佐和子 様





宮嶋 朗 」





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