昭和お笑い暗黒史────戦艦「大阪」解体大作戦
転:「オオサカ・バトルロワイヤル」
「さぁ、買うたってや〜〜!」
「安いで、安いで〜〜〜〜!」
大阪市中央区、黒門市場。
ミナミの中央に位置するここ大阪市民の台所で、戦前より鮮魚店を営んできた「魚虎」では、今日も威勢の良い客引きの声が響いている。
ここの一人娘、元ヤンでバツイチ、一児の母にして、今は「出戻り看板娘」の異名で客から親しまれている武内寅美(23)は、店の奥の調理場で手際良く鱧の骨切りをしていた。
しばらくして、彼女は手を止め、屈んで久しい腰を伸ばす為に店の表まで出た。
腰のあたりに拳をゴリゴリ当てて背筋を反らせた、まるで応援団のような体勢を取り、しばし一日中酷使した腰を弛緩させる。
そして、何気なく、大阪城のある方角の空を仰いだのだった。
「…………お母ちゃん……?」
寅美が、反り返ったエセ応援団ポーズのまま、呼び込みを続けるこの道40年のベテラン、武内虎子(46)を呼んだ。
「何やの?!んな、アホみたいなカッコしてからに!」
「通天閣……浮いとるで…?!」
「……アホなカッコでアホな事抜かしてやんと!早よ、調理場戻らんかいな!じっとしてても、ゼニは降ってけぇへんで?!」
「……う、うん……………。」
………大阪は、平和であった。
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